いつも読み応えのある著者だが、この作品は、過去何年もメンタルクリニックにお世話になっている身として、ある部分の核心をつく作品だと思った。
精神医療において、精神科医と臨床心理士(カウンセラー)、精神医学と心理学の間には、微妙な位置関係があり、現在は一応共存共栄のような形にはなっているが、前者はどちらかというと脳の中の物理的な病気の治療という観点から、後者は心理的な不適応状態の解消に向かってのアドバイザーとしての立場でのアプローチをとっている。
しかし、究極のところ、社会的な不適応状態になり、病気という状態に至っていたとしても、他人がその人の心にアプローチして、適応できるように働きかけることがよろしいことなのかどうなのか。現在の私で言えば、抗うつ剤の助けを借りて、出勤していることは、実利的にはとても助かることではあるけれども、それはあくまでも自助努力を後押ししてもらうという範囲のことであって、本来どこまでが治療を受けるべき範囲なのかということは、医師が判断しているがその境界線は実に微妙なものだと思う。
本書においては、極端な例として、催眠療法によって異常心理を閉じ込めるという架空の治療法を受けた人間が、やがてその拘束を解かれ陥いる危機的状態への過程と、そこに恋愛関係として関わる学校の保健室担当の女性養護教諭、そもそもその治療をした男性カウンセラーたちが主要人物として登場する。なかでも幼児を抱えて孤軍奮闘する女性教諭が実在感があって、共感が持てる。
究極の問いかけとしての、人が他人の心に踏み込んでいいのかということに関しては、その答えは色々な制限付きでしか出ないだろう。
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